日本の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)では、医療機器のリスクレベルに応じて3つの手続きが定められている。
| 手続き | 対象 | 審査機関 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 届出 | クラスI(一般医療機器) | PMDA(届出のみ) | 数週間 |
| 認証 | クラスII(管理医療機器)※基準あり | 第三者認証機関 | 3〜6ヶ月 |
| 承認 | クラスIII・IV(高度管理医療機器) | PMDA(厚生労働大臣名) | 6ヶ月〜数年 |
「認証」と「承認」は明確に異なる。認証は第三者認証機関が審査する管理医療機器向けの手続きであり、承認はPMDAが審査する高度管理医療機器向けの手続きだ。
| クラス | リスクレベル | 該当例 | 手続き |
|---|---|---|---|
| I | 極めて低い | メス・ピンセット・聴診器 | 届出 |
| II | 比較的低い | MRI用コイル・電子体温計・補聴器 | 認証 |
| III | 比較的高い | 人工透析器・ステント・人工骨 | 承認 |
| IV | 極めて高い | ペースメーカー・人工心臓弁 | 承認 |
クラスが上がるほど、製造に関わる全ての工程(素材調達→加工→組立→検査→出荷)に対する品質管理要件が厳しくなる。精密加工メーカーは、自社がどのクラスの部品製造に関わるのかを正しく把握する必要がある。
ISO 13485は、医療機器に特化した品質マネジメントシステム(QMS)の国際規格だ。ISO 9001をベースにしつつ、医療機器固有の要求事項が追加されている。
| 比較項目 | ISO 9001 | ISO 13485 |
|---|---|---|
| 対象 | 全産業 | 医療機器産業 |
| 継続的改善 | 重視 | 一貫した品質の維持を重視 |
| 設計管理 | 任意 | 必須(設計バリデーション含む) |
| トレーサビリティ | 推奨 | 必須 |
| リスクマネジメント | 任意 | 必須(ISO 14971と連携) |
| 文書管理 | 電子化推奨 | 厳格な文書管理が必須 |
医療機器メーカーから部品加工を受注する場合、ISO 13485の認証取得が事実上の必須条件になることが多い。未取得でも受注できるケースはあるが、新規取引の開拓では大きなハンデとなる。
日本国内で医療機器を製造販売する場合、薬機法に基づく「QMS省令」(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)に適合する必要がある。
QMS省令とISO 13485は内容的に整合が図られているが、完全に同一ではない。ISO 13485を取得していれば、QMS省令への適合がスムーズになるが、追加の国内法規制への対応が必要なケースがある。
| 認証 | 内容 | 必要な場面 |
|---|---|---|
| ISO 14644 | クリーンルームの清浄度規格 | インプラント部品・体内埋め込み型機器の加工 |
| ISO 14971 | リスクマネジメント | 設計開発まで関与する場合 |
| ISO 10993 | 生物学的安全性試験 | 生体接触する部品の材料評価 |
| FDA 21 CFR Part 820 | 米国QSR(品質システム規制) | 米国市場向け製品の加工 |
ISO 13485を取得しているメーカーでも、認証の「適用範囲」が限定されている場合がある。以下を確認する。
– 認証範囲に「加工」が含まれているか(設計のみ、組立のみの場合もある)
– 対象製品のクラス(クラスIの部品のみでクラスIIIに未対応の場合もある)
– 認証機関の信頼性(JQA、BSI、SGSなど国際的に認められた機関か)
| 対応範囲 | 特徴 | 適したケース |
|---|---|---|
| 加工のみ | 図面通りに部品を製造 | 完成図面がある場合 |
| 設計開発+加工 | 製品設計から加工まで一貫 | 構想段階からの相談 |
設計開発まで対応できるメーカーは、設計変更への柔軟な対応やVA/VE提案が期待できるが、加工費単価は高くなる傾向がある。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「医療機器等基準適合性認証情報」で、認証取得済みの製品・製造業者を検索できる。URL: https://www.pmda.go.jp/
医療機器部品の加工では、使用した素材のロット・加工条件・検査結果を紐づけて記録し、後から追跡可能にする「トレーサビリティ」が必須だ。
具体的には、以下の文書を加工完了品とともに納品する。
– 材料証明書(ミルシート)
– 加工記録(使用設備・加工条件・作業者)
– 検査成績書(寸法測定結果・外観検査記録)
– 工程内不適合の記録(該当がある場合)
体内に埋め込む部品(インプラント等)の加工では、加工後の洗浄工程が品質の一部となる。切削油・砥粒・バリなどの残留物を規定値以下にするため、超音波洗浄→純水リンス→クリーンルーム内での乾燥・検査の工程が求められる。
量産工程では、加工条件を固定し、その条件で一貫した品質が得られることを検証する「工程バリデーション」が必要だ。IQ(設備適格性確認)→OQ(運転適格性確認)→PQ(稼動性能適格性確認)の3段階で実施する。
– [ ] 図面(材質・公差・表面処理を明記)
– [ ] 対象医療機器のクラス分類
– [ ] 要求する品質認証(ISO 13485等)
– [ ] トレーサビリティ要件の有無
– [ ] 洗浄・クリーン度の要件
– [ ] ロット数と納期
– [ ] 必要な検査成績書の内容
医療機器の図面には、知的財産に直結する設計情報が含まれる。見積依頼の段階でNDAを締結してから図面を開示するのが一般的だ。メーカー側もNDA対応に慣れている場合が多い。
| トラブル | 原因 | 回避策 |
|---|---|---|
| 認証範囲の不一致 | メーカーのISO 13485の適用範囲外の部品を発注 | 事前に認証範囲を書面で確認 |
| トレーサビリティの欠落 | 記録の様式・範囲の認識齟齬 | 納品時に必要な文書リストを事前合意 |
| 洗浄不足 | 洗浄基準の未定義 | 洗浄方法・残留物の許容値を図面または仕様書に明記 |
| 工程変更の未通知 | メーカーが加工条件を変更したことを顧客に通知せず | 4M変更管理(Man/Machine/Material/Method)の通知義務を契約に含める |
医療機器向けの精密加工は、一般産業部品と比べて品質管理体制への要求が格段に厳しい。発注前に以下を確認しておくことが、スムーズな取引の第一歩だ。
– [ ] 対象部品が属する医療機器のクラス(I〜IV)
– [ ] メーカーのISO 13485認証状況と適用範囲
– [ ] トレーサビリティ・洗浄・バリデーションの要件
– [ ] NDAの締結と図面開示のプロセス
– [ ] 検査成績書の内容・様式の合意
– 薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)
– QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)
– ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems
– ISO 14971:2019 Medical devices — Application of risk management to medical devices
– PMDA 医療機器等基準適合性認証情報(https://www.pmda.go.jp/)
*この記事は精密加工ジャーナル編集部が作成しました。記載内容は執筆時点の情報に基づいています。規格・法令の最新情報は各発行機関の公式情報をご確認ください。*